logを含む難しい積分(調和数の4倍添え字を応用)

前回の記事:

複素積分演習(対数と2つの分岐点)

では複素積分によって$$\int_0^1\frac{\sqrt{x}\ln(1-x)}{1+x^3}dx=-\frac{2}{9}G-\frac{\pi}{6}\ln2$$を示しました。今回の積分はこれと似ていますが、全く異なる方法でアプローチします。

Today's Theme

Yury Brychkov, "Handbook of Special Functions: Derivatives, Integrals, Series and Other Formulas" において記された次の等式を証明する。$$\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{1+x^4}dx=\frac{\pi}{32}\ln2-\frac{G}{4}-\frac{\pi}{8}\ln(\sqrt{2}+1)$$

なお、途中で次の式を得る。$$\sum_{n=0}^\infty\frac{H_n}{n+2}x^n=\frac{\ln^2(1-x)}{2x^2}-\frac{1}{x}-\frac{1-x}{x^2}\ln(1-x)$$\begin{eqnarray*}\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^nH_{4n}}{2n+1}=\frac{\pi}{4}\ln(\sqrt{2}+1)-\frac{\pi}{16}\ln2+\frac{\pi}{4}-\frac{\ln(\sqrt{2}+1)}{\sqrt{2}}-\frac{\pi}{2\sqrt{2}}\end{eqnarray*}

これの証明については、前回と同様に複素解析を用いようとしましたがうまくいきませんでした。なので級数展開によって証明します。その際、調和数の4倍添え字 $H_{4n}$ を扱う必要があり、少し骨が折れます。

書籍はAmazon等で買えます。700ページもあり、非常に多くの微分・積分・級数公式が網羅されています。眺めるだけでも面白いです。


Handbook of Special Functions: Derivatives, Integrals, Series and Other Formulas

調和数を含んだ級数の解法については、本ブログでシリーズ化しています。

調和数を含む級数(Euler-sum)シリーズ

ぜひ参考にしてください。

級数展開とベータ関数

被積分関数の分母を級数展開すると$$I:=\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{1+x^4}dx=\sum_{n=0}^\infty(-1)^n\int_0^1x^{4n+1}\ln(1-x)dx$$ベータ関数の1階偏導関数$$\dd{B(p,q)}{q}=\int_0^1x^{p-1}(1-x)^{q-1}\ln(1-x)dx=B(p,q)\bigl(\psi(q)-\psi(p+q)\bigr)$$を用いると$$I=\sum_{n=0}^\infty(-1)^n\frac{1}{4n+2}\bigl(\psi(1)-\psi(4n+3)\bigr)$$となります。ベータ関数の偏導関数、ディガンマ関数についてはこちら:

∫logsin xdx 対数正弦積分その1

【γ8】ディガンマ関数の特殊値と極

したがって\begin{eqnarray*}I &=& -\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+1}\left(1+\frac{1}{2}+\cdots +\frac{1}{4n+2}\right) \\&=& -\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+1}\left(H_{4n}+\frac{1}{4n+1}+\cdots +\frac{1}{4n+2}\right) \\&=& -\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^nH_{4n}}{2n+1} -\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{(2n+1)(4n+1)}-\frac{1}{4}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{(2n+1)^2}\end{eqnarray*}第3項はCatalan定数を用いて $-G/4$ となります。第2項はここでは示しませんが部分分数分解するとよく知られた級数が現れ、計算可能です。結局、

\begin{equation}I=-\frac{G}{4}-\frac{\sqrt{2}-1}{8}\pi-\frac{\ln(\sqrt{2}+1)}{2\sqrt{2}}-\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^nH_{4n}}{2n+1}\tag{1}\end{equation}

が導かれます。残った級数が問題で、本稿のキモでもあります。

4倍添え字の調和数を攻略

基本となる級数とその関数形

$$f(x):=\sum_{n=0}^\infty\frac{H_n}{n+2}x^n$$なる関数を考えます。この級数がこのあと重要になりますが、どのような関数で表されるでしょう。まず $x^2$ をかけて微分すると$$\Bigl(x^2f(x)\Bigr)'=\sum_{n=0}^\infty H_n x^{n+1}$$

調和数を含んだ級数とゼータ関数 part1

で得た式\begin{equation}\sum_{n=1}^\infty H_nx^n=-\frac{\ln(1-x)}{1-x}\tag{2}\end{equation}を用いて$$\Bigl(x^2f(x)\Bigr)'=-\frac{x}{1-x}\ln(1-x)$$これを積分します。$-\frac{x}{1-x}=1-\frac{1}{1-x}$ とバラしてからやるといいでしょう。$$x^2f(x)=-(1-x)\ln(1-x)-x+\frac{1}{2}\ln^2(1-x)$$よって $f(x)$ が求まります。

\begin{equation}\sum_{n=0}^\infty\frac{H_n}{n+2}x^n=\frac{\ln^2(1-x)}{2x^2}-\frac{1}{x}-\frac{1-x}{x^2}\ln(1-x)\tag{3}\end{equation}

添え字を4倍にした級数の導出法

過去記事

調和数を含んだ級数(Euler-sum)とゼータ関数 part9

において、級数の添え字 $n$ を $4n$ へ変換する方法を示しました。すなわち\begin{equation}\sum_{n=0}^\infty a_{4n}=\frac{1}{4}\left(\sum_{n=0}^\infty a_n+\sum_{n=0}^\infty (-1)^na_n+\sum_{n=0}^\infty a_n i^n+\sum_{n=0}^\infty a_n (-i)^n\right)\tag{4}\end{equation}この式で $a_n=\frac{H_n}{n+2}\left(e^{\frac{\pi}{4}i}\right)^n$ とすると\begin{equation}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^nH_{4n}}{2n+1}=\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty \frac{H_n}{n+2}\left[\left(e^{\frac{\pi}{4}i}\right)^n+\left(e^{-\frac{3\pi}{4}i}\right)^n +\left(e^{\frac{3\pi}{4}i}\right)^n + \left(e^{-\frac{\pi}{4}i}\right)^n\right]\end{equation}したがって次のようになります。

\begin{equation}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^nH_{4n}}{2n+1}=\mathfrak{R}\left[\sum_{n=0}^\infty\frac{H_n}{n+2}\left(e^{\frac{\pi}{4}i}\right)^n + \sum_{n=0}^\infty\frac{H_n}{n+2}\left(e^{\frac{3\pi}{4}i}\right)^n\right]\tag{5}\end{equation}

これを計算するには(3)に $x=e^{\frac{\pi}{4}i}$ , $x=e^{\frac{3\pi}{4}i}$ を代入すればいいです。その際に\begin{eqnarray*}1-e^{\frac{\pi}{4}i} &=& \sqrt{2-\sqrt{2}}\;e^{-\frac{3\pi}{8}i} \\ 1-e^{\frac{3\pi}{4}i} &=& \sqrt{2+\sqrt{2}}\;e^{-\frac{\pi}{8}i}\end{eqnarray*}を使うといいです。計算は少し面倒ですが、やりきると

\begin{equation}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^nH_{4n}}{2n+1}=\frac{\pi}{4}\ln(\sqrt{2}+1)-\frac{\pi}{16}\ln2+\frac{\pi}{4}-\frac{\ln(\sqrt{2}+1)}{\sqrt{2}}-\frac{\pi}{2\sqrt{2}}\tag{6}\end{equation}

証明の完成

(6)を(1)に用いるといくつかの項が消えて、最終的に次のようになります。

\begin{equation}\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{1+x^4}dx=\frac{\pi}{32}\ln2-\frac{G}{4}-\frac{\pi}{8}\ln(\sqrt{2}+1)\tag{7}\end{equation}

自力で計算しきるには、なかなか苦労しました。以上です。

おまけと一般化

今回扱った積分を一般化すると$$\int_0^1\frac{x^q \ln(1-x)}{x^p+1}dx=-\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{pn+q+1}H_{pn+q+1}$$となります。調和数の $p$ 倍添え字の級数となっており、$p$ が大きいほど困難になります。今回は $p=4$ とした例でしたが、$p=2$ では下のようになります。

$$\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{x^2+1}dx=-\frac{5}{16}\zeta(2)+\frac{\ln^22}{8}$$

これを示します。まず級数表示すると$$\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{x^2+1}dx=\frac{1}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^nH_{2n}}{n}$$$n=1$ からになるようにずらしたので注意。(2)より$$\sum_{n=1}^\infty H_nx^{n-1}=-\frac{\ln(1-x)}{x(1-x)}$$これを $0$ から $x$ まで積分します。右辺は先に部分分数分解をしておきましょう。$$\sum_{n=1}^\infty \frac{H_n}{n}x^{n}=\Li_2(x)+\frac{1}{2}\ln^2(1-x)$$過去記事

調和数を含んだ級数(Euler-sum)とゼータ関数 part7

で学んだ2倍添え字に関する等式を使って$$\sum_{n=1}^\infty\frac{H_{2n}}{2n}x^{2n}=\frac{1}{2}\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{H_{n}}{n}x^{n}+\sum_{n=1}^\infty\frac{H_{n}}{n}(-x)^{n}\right)$$$$\therefore\quad\sum_{n=1}^\infty\frac{H_{2n}}{n}x^{2n}=\frac{1}{2}\Li_2(x^2)+\frac{1}{2}\ln^2(1-x)+\frac{1}{2}\ln^2(1+x)$$$x=i$ として計算することにより$$\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{x^2+1}dx=-\frac{5}{16}\zeta(2)+\frac{\ln^22}{8}$$

次:

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