無限積の理論シリーズ第2回。前回は無限積の定義や収束・発散の意味、基本的な計算問題をやりました。今回は収束・発散に関するやや難しい条件と、級数との関係を解説します。無限積の収束性は、実は対応する無限級数の収束性と深く関係しています。
前回はこちら:
以下、無限積 $\prod(1+a_n) $ を $P$、その部分積の列を $\{P_n\}$ とします。またこの無限積を議論する上でカギとなる無限級数 $\sum a_n$ を $S$ とし、部分和の列を $\{S_n\}$ としておきます。 \begin{eqnarray}S_n&:=&\sum_{n=1}^\infty a_n \xrightarrow[]{n\to\infty} S\tag{0a}\\P_n&:=&\prod_{n=1}^\infty (1+a_n)\xrightarrow[]{n\to\infty} P\tag{0b}\end{eqnarray}
非負の数列 $\{a_n\}$ に対して無限積 $\prod(1+a_n)$ と無限級数 $\sum a_n$ は、共に収束するか共に発散する。
【証明】$e^x\ge 1+x$ より\begin{eqnarray*}a_1+a_2+\cdots+a_n&<&(1+a_1)(1+a_2)\cdots(1+a_n)\\&<& e^{a_1}e^{a_2}\cdots e^{a_n}\end{eqnarray*}よって部分積と、対応する部分和の関係として$$S_n<P_n\le e^{S_n}$$が成立。$\{S_n\}$ と $\{P_n\}$ は単調非減少数列なので、前者が収束するならば後者は上に有界となって収束、後者が収束するならば前者もまた然り。発散についても同じ不等式から同様。よって両者の収束or発散は一致する。【証明終】
つまり無限積と級数について、どちらかの収束性を調べたければ、もう一方を検証すればいいということになります。これを用いて次のような問題を考えられます。
正項級数 $\sum \frac{1}{n}$ が発散することを示せ。
$$\prod_{n=1}^\infty\left(1+\frac{1}{n}\right)=\prod_{n=1}^\infty\frac{n+1}{n}=\lim_{n\to\infty}(n+1)=+\infty$$よって定理2.1より$\sum \frac{1}{n}$ は発散。
無限積 $\prod (1+\frac{1}{n^2})$ は収束するか。発散するか。
正項級数 $\sum\frac{1}{n^2}$ は収束する(ゼータ関数)ので、当該の無限積も収束する。ちなみにその値は$$\prod_{n=1}^\infty\left (1+\frac{1}{n^2}\right)=\frac{\sinh \pi}{\pi}$$詳しくはこちらへ。
次に、無限積 $\prod(1+a_n) $ において、$a_n$ が正でない場合はどうでしょうか。
$\forall n\in\NN$ で $-1<a_n\le 0$ とする。このとき無限積 $\prod(1+a_n)$ と無限級数 $\sum a_n$ は、共に収束するか共に発散する。
【証明】$b_n:=-a_n$ とすると\begin{equation}0\le b_n<1\;,\; 0<1-b_n\le 1\tag{1}\end{equation}(0a)(0b)より $S_n^*:=\sum_{k=1}^n b_n$ とおくと $S_n=-S_n^*$ である。また $P_n=\prod_{k=1}^n(1-b_k)$ となる。\begin{equation}1-x\le e^{-x}\quad(\forall x\in\RR)\tag{2}\end{equation}より$$(1-b_1)(1-b_2)\cdots(1-b_n)\le e^{-b_1}e^{-b_2}\cdots e^{-b_n}$$\begin{equation}\therefore\quad 0<P_n\le e^{-S^*_n}\tag{3}\end{equation}よって$P_n$ は下に有界かつ(1)より単調非増加数列なので、収束するか $0$ に発散するかのいずれかである。$S_n^*$ は単調非減少数列なので収束するか $+\infty$ に発散するかのいずれかである。
<1> $S_n^*$ が $+\infty$ に発散するとする。(3)より $P_n\to0$ で発散する。
<2> $S_n^*$ が $S^*$ に収束するとすると、コーシー列なので\begin{equation}\exists N,\;\forall n>N,\;S_n^*-S_N^*<\frac{1}{2}\tag{4}\end{equation}すなわち\begin{equation}\sum_{k=N+1}^n b_k<\frac{1}{2}\tag{5}\end{equation}ところで \begin{equation}\frac{P_{N+1}}{P_N}=1-b_{N+1}\tag{6}\end{equation}であるが、$$\frac{P_{N+k}}{P_N}\ge 1-(b_{N+1}+b_{N+2}+\cdots +b_{N+k})$$と仮定すると\begin{eqnarray*}\frac{P_{N+k+1}}{P_N}&=&\frac{P_{N+k}}{P_N}(1-b_{N+k+1})\\&\ge& \{1-(b_{N+1}+b_{N+2}+\cdots +b_{N+k})\}(1-b_{N+k+1})\\&=&1-(b_{N+1}+\cdots +b_{N+k+1})+b_{N+k+1}(b_{N+1}+\cdots+b_{N+k})\\ &\ge& 1-(b_{N+1}+b_{N+2}+\cdots +b_{N+k+1})\end{eqnarray*}よって(6)も併せて数学的帰納法より$$\frac{P_n}{P_N}\ge 1-\sum_{k=N+1}^n b_k\quad(\forall n>N)$$(5)より$$\frac{1}{2}<P_n\le P_N$$単調非増加な $\{P_n\}$ は $0$ より大きな下界をもつので収束する。
<1><2>より定理は示された。【証明終】
定理2.2は次の定理へ拡張できます。
$\forall n\in\NN$ で $a_n\ge 0$ とする。このとき無限積 $\prod(1-a_n)$ と無限級数 $\sum a_n$ は、共に収束するか共に発散する。
【証明】$\sum a_n$ が収束するなら、ここの定理2より $a_n\to 0$ なので$$\exists N\in\NN,\;\forall n\ge N,\; a_n<1$$すなわち $-1<-a_n\le 0$ である。よって定理2.2より $\prod(1-a_n)$ も収束する。
次に $\prod(1-a_n)$ が収束するとすると系1.5より $a_n\to 0$ なので$$\exists N'\in\NN,\;\forall n\ge N',\; a_n<1$$すなわち $-1<-a_n\le 0$ である。よって定理2.2より $\sum a_n$ も収束する。【証明終】
本質は定理2.2と同じです。無限積が収束する場合 $\{1-a_n\}$ は $n$ が大きくなると正になるということです。収束する無限積の負項は必ず有限個であることは前回説明しました。
$$P:=\prod_{n=1}^\infty \left(1-\frac{1}{n}\right)$$は収束するか。
$\sum\frac{1}{n}$ が発散するので定理2.3より発散する($P_n\to 0$)。
$$P:=\prod_{n=1}^\infty n\sin\frac{1}{n}$$は収束するか。
$$P=\prod_{n=1}^\infty (1-a_n)\;,\;a_n=1-n\sin\frac{1}{n}$$とおく。$$n\sin\frac{1}{n}=\frac{\sin\frac{1}{n}}{\frac{1}{n}}$$より関数 $\frac{\sin x}{x}$ を考えれば $x>0$ で $0<\frac{\sin x}{x}<1$ なので $a_n\ge 0$. よって定理2.3が使える。
$\sin x$ のマクローリン展開を考えれば$$1-\frac{\sin x}{x}=\frac{x^2}{6}+O(x^4)$$$$\therefore\quad a_n=\frac{1}{6n^2}+O(n^{-4})\;\quad\;( n\to\infty)$$ここの系3.2Aより、$\sum\frac{1}{n^2}$ が収束するから $\sum a_n$ も収束する。よって定理2.3より $P$ は収束する。
$$P(\t):=\prod_{n=1}^\infty\left(1-n\sin\frac{\t}{n^2}\right)$$の収束性を調べよ。
$\t=0$ では $P(0)=1$ である。
$\t\neq 0$ のときを考える。例えば $\t=\pi/2$ では $n=1$ のときのみに因数 $0$ が現れる。$\t=2\pi$ では $n=2$ のときのみに因数 $0$ が現れる。このように $\t$ の値によって $0$ が生じるが、それは必ず有限個であり、無限積の取り決めどおり、除外して考える。$$n\sin\frac{\t}{n^2}=\frac{\sin\frac{\t}{n^2}}{\frac{\t}{n^2}}\frac{\t}{n}\to 0$$より $1-n\sin\frac{\t}{n^2}$ の符号は、$n$ が大きくなっていくといずれ正の値のみになる。$\t$ の値によって $n\sin\frac{\t}{n^2}$ の符号には正負あり得るが、$n$ が十分大きくなると、$\t$ の符号がそのまま $n\sin\frac{\t}{n^2}$ の符号である。よって正負によって定理2.1または定理2.3のいずれかを用いて収束性を議論できる。上式より$$a_n=n\sin\frac{\t}{n^2}\sim\frac{\t}{n}$$であり、$\sum \frac{\t}{n}$ は発散するのでここの系3.2Aより $\sum a_n$、そして無限積も発散する。以上から $P(\t)$ は $\t=0$ でのみ収束する。
計算してみると、例題2.5は $\t<0$ なら $0$ に、$\t>0$ なら $+\infty$ に発散します。
$$P:=\prod_{n=1}^\infty \cos\frac{1}{n}$$は収束するか。
$$P=\prod_{n=1}^\infty \left(1-2\sin^2\frac{1}{2n}\right)$$ここで $x\ge 0$ で $x\ge \sin x$ だから$$\sin^2\frac{1}{2n}\le\frac{1}{4n^2}$$$\sum\frac{1}{4n^2}$ は収束するので定理2.3より $P$ も収束。
$$P:=\prod_{n=1}^\infty\left(1+\frac{i}{k}\right)\; ,\; P^*:=\prod_{n=1}^\infty\left|1+\frac{i}{k}\right|$$は収束するか。ただし $i$ は虚数単位。
$$P_n^*=\sqrt{\prod_{k=1}^\infty\left(1+\frac{1}{k^2}\right)}$$例題2.2より $P^*$ は収束する。\begin{eqnarray*}P_n &=& \prod_{k=1}^n\left\{\sqrt{1+\frac{1}{k^2}}e^{i\t_k}\right\}\quad,\quad \t_k=\arctan\frac{1}{k}\\&=& P_n^* e^{-\sum_{k=1}^n\t_k}\end{eqnarray*}よって $e^{-\sum_{k=1}^n\t_k}$ の収束性を考えればよい。$$\t_k=\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+1}\frac{1}{k^{2n+1}}$$こちらの定理2.2より$$\left|\t_k-\frac{1}{k}\right|\le\frac{1}{3k^3}$$$\sum\frac{1}{k^3}$ は収束するので(ゼータ関数)、同リンク先の定理3.1より$\sum\left|\t_k-\frac{1}{k}\right|$ も収束する。絶対収束する級数は収束するので $\sum(\t_k-\frac{1}{k})$ が収束する。しかしながら $\sum\frac{1}{k}$ が発散するので $\sum\t_k$ も発散する。したがって $P_n$ は発散する。
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