「ガンマ関数の基礎」シリーズのスタートです.今回はガンマ関数の積分表現による定義,階乗の一般化であることの説明,負の値への解析接続,極について,特殊値というトピックになります.
もうこんな基本は大丈夫だよという方は例えば計算が本格化する:
などからはじめてもいいかも。本シリーズは全20回です。
【γ2】ガンマ関数の3つの乗積表示と相反公式(ガウス・オイラー・ワイエルシュトラス)
【γ3】ベータ関数の定義・ガンマ関数との関係・三角関数での積分表示
【γ9】ディガンマ関数の相反公式・倍数公式と特殊値・ゼータ関数(ガンマ関数の基礎シリーズ9)
【γ10】ポリガンマ関数の値、極、級数表示、ゼータ関数との関係(ガンマ関数の基礎シリーズ10)
【γ13】ガンマ関数の放物線経路によるブルゲの積分表示・ハンケル路(ガンマ関数の基礎13)
【γ14】オイラー定数の積分表示2選・調和数・積分評価(ガンマ関数の基礎14)
【γ18】対数ガンマ関数のフーリエ級数表示(ガンマ関数の基礎18)
【γ19】対数ガンマ関数におけるビネの第2公式の導出(アベル・プラナの和公式,ポリガンマ関数)(ガンマ関数の基礎19)
【γ20】ガンマ関数の漸近展開(ビネの第2公式・arctanの展開・スターリング級数)(ガンマ関数の基礎20)
姉妹シリーズ「ゼータ関数の基礎」はこちらから!
【ζ1】フルヴィッツゼータ関数の積分表示(ゼータ関数の基礎1)
でははじめましょう!
定義の仕方は様々ですが,ここでは
\begin{equation}\G(z)=\int^\infty_0e^{-t}t^{z-1}dt\quad(\mathfrak{R}z>0)\tag{1}\end{equation}
と定義してスタートします.
簡単のため、$z$ を正の実数 $x$ としたときの収束性を確認します。$$\int^\infty_0e^{-t}t^{x-1}dt=\left(\int^1_0+\int^\infty_1\right)e^{-t}t^{x-1}dt$$と分けて、\begin{eqnarray*}\int^\infty_1e^{-t}t^{x-1}dt &=& \int_1^\infty e^{-t}t^{x+1}t^{-2}dt\\&\le& \left(\frac{x+1}{e}\right)^{x+1}\int_1^\infty t^{-2}dt\\&=&\left(\frac{x+1}{e}\right)^{x+1}\end{eqnarray*} かたや$$\int_\epsilon^1e^{-t}t^{x-1}dt\le\int_\epsilon^1t^{x-1}dt=\frac{1-\epsilon^x}{x}\xrightarrow[]{\epsilon\to+0}\frac{1}{x}$$なので $x>0$ で(1)は収束します。
(1)の $z$ を $z+1$ として部分積分すると\begin{eqnarray*}\G(z+1)&=&\int^\infty_0e^{-t}t^{z}dt\\&=&-\left[e^{-t}t^z\right]_0^\infty+z\int_0^\infty e^{-t}t^{z-1}dt\\&=&z\G(z)\end{eqnarray*}また$$\G(1)=\int^\infty_0e^{-t}dt=1$$であるから
$$\G(n)=(n-1)!\quad(n\in\NN)$$
つまりガンマ関数 $\G(z)$ は, $z$ が自然数のときは階乗となる一方で,自然数でなくても値が存在するので「階乗を一般化したもの」といえます.例えば$$\G\left(\frac{3}{2}\right)=\frac{\sqrt{\pi}}{2}$$より,あえて階乗の記号で書くなら $\frac{1}{2}!=\sqrt{\pi}/2$ となります.
(1)の定義式は $z$ の実部が正のときのみ収束します.なので例えば $z=-1/2$ などは定義域に含まれないことになります.ただ
\begin{equation}\G(z+1)=z\G(z)\tag{2}\end{equation}
を利用することで負におけるガンマ関数の値を決めることができます.
のちほど示しますが $\G(1/2)=\sqrt{\pi}$ が成立します.そこで(2)より$$\G\left(\frac{1}{2}\right)=-\frac{1}{2}\G\left(-\frac{1}{2}\right)$$$$\therefore\quad \G\left(-\frac{1}{2}\right)=-2\sqrt{\pi}$$繰り返せば$$\G\left(-\frac{3}{2}\right)=-\frac{2}{3}\G\left(-\frac{1}{2}\right)=\frac{4\sqrt{\pi}}{3}$$$$\G\left(-\frac{5}{2}\right)=-\frac{2}{5}\G\left(-\frac{3}{2}\right)=-\frac{8\sqrt{\pi}}{15}$$のように次々と値が求まります.このように定義域を拡大していくことを「解析接続」といいます.
ただし $1=\G(1)=0\G(0)$ より $\G(0)$ は無限大に発散します.このように $z$ が$0$ または負整数においては $\G(z)$ は発散して値をとりません.
以上により $\G(z)$ の定義域は $z\neq 0,-1,-2,\cdots$ まで広がりました.
$z=0,-1,-2\cdots$ で $\G(z)$ は発散しますが,もう少し詳しく調べます.
$$\displaystyle\lim_{z\to 0}z\G(z)=\displaystyle\lim_{z\to 0}\G(z+1)=1$$よってガンマ関数が $z=0$ で発散するスピードは $\frac{1}{z}$ くらいということです.このときガンマ関数は $z=0$ において「$1$ 位の極」をもつといい,留数は $a_{-1}=1$ です.
1位の極をもつとはすなわち$$\G(z)=\frac{a_{-1}}{z}+\sum_{n=0}^\infty a_nz^n$$とローラン展開できるということです.この両辺に $z$ をかけて $z\to 0$ とすると $a_{-1}$ が求まります.
同様に$$\displaystyle\lim_{z\to -1}(z+1)\G(z)=\displaystyle\lim_{z\to -1}(z+1)\frac{\G(z+1)}{z}=\displaystyle\lim_{z\to -1}\frac{\G(z+2)}{z}=-1$$ゆえに $\G(z)$ は $z=-1$ に1位の極をもち,留数は $-1$ です.
この調子で一般の負整数 $-n$ に1位の極を持つことを示します.\begin{eqnarray*}\displaystyle\lim_{z\to -n}(z+n)\G(z)&=&\displaystyle\lim_{z\to -n}\frac{(z+n)\G(z+1)}{z}\\&=&\displaystyle\lim_{z\to -n}\frac{(z+n)\G(z+2)}{z(z+1)}\\&=&\cdots=\displaystyle\lim_{z\to -n}\frac{(z+n)\G(z+n)}{z(z+1)\cdots(z+n-1)}\\&=&\displaystyle\lim_{z\to -n}\frac{\G(z+n+1)}{z(z+1)\cdots(z+n-1)}\\&=&\frac{(-1)^n}{n!}\end{eqnarray*}というわけで
$\G(z)$ は $z=-n$ $(n\in\ZZ^+)$ に$1$位の極をもち,留数は $\dfrac{(-1)^n}{n!}$.
残念ながら $\G(z)$ の値はほとんどの $z$ において解析的に値を求めることができません.しかし $z$ が自然数や半整数のときは値が分かっています.
$z\in\NN$ のときは階乗と同義なことから値は明らかです $\left(\G(n)=(n-1)!\right)$ .
半整数のときはまず $z=1/2$ での値を求めます.\begin{eqnarray*}\G\left(\frac{1}{2}\right)&=&\int_0^\infty e^{-t}t^{-\frac{1}{2}}dt\\&=& 2\int_0^\infty e^{-x^2}dx\quad(t=x^2)\\&=&\sqrt{\pi}\end{eqnarray*}あとは芋づる式です.$n\in\ZZ^+$ として\begin{eqnarray*}\G\left(n+\frac{1}{2}\right)&=&\left(n-\frac{1}{2}\right)\left(n-\frac{3}{2}\right)\cdots\frac{3}{2}\frac{1}{2}\G\left(\frac{1}{2}\right)\\&=&\frac{(2n)!}{2^{2n}n!}\sqrt{\pi}\end{eqnarray*}\begin{eqnarray*}\G\left(-n+\frac{1}{2}\right)&=&\frac{\G(\frac{1}{2})}{(-n+\frac{1}{2})\cdots(-\frac{3}{2})(-\frac{1}{2})}\\&=&\frac{(-2)^n\sqrt{\pi}}{(2n-1)!!}\\&=&\frac{(-4)^nn!}{(2n)!}\sqrt{\pi}\end{eqnarray*}まとめると
$$\G(n)=(n-1)!\quad (n\in\NN)$$$n$ を非負整数とすると$$\G\left(n+\frac{1}{2}\right)=\frac{(2n)!}{2^{2n}n!}\sqrt{\pi}$$$$\G\left(-n+\frac{1}{2}\right)=\frac{(-4)^nn!}{(2n)!}\sqrt{\pi}$$
$$I_n\equiv \int_0^\frac{\pi}{2}\sin^nxdx\quad(n\in\ZZ^+)$$をガンマ関数を用いて表せ.
$n$ を偶奇で分けて計算します.するとどちらも$$I_n=\frac{\sqrt{\pi}\G(\frac{n+1}{2})}{2\G(\frac{n}{2}+1)}$$と表せることを確認してください.
$$\int_0^1\left(\log\frac{1}{x}\right)^{z-1}dx\quad\mathfrak{R}z>0$$はガンマ関数 $\G(z)$ と等しいことを示せ。(オイラー,1730)
$\log\dfrac{1}{x}=t$ とおけば$$\int_\infty^0t^{z-1}(-e^{-t})dt=\G(z)$$よって$$\G(z)=\int_0^1\left(\log\frac{1}{x}\right)^{z-1}dx$$
次回:
本記事では、下記の本を参考にしています。2021年8月現在、第30刷。かなりの廉価ながら特殊関数に関する公式が網羅されています。参照用にするもよし、公式の証明にトライするもよし。
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負の整数-nにおける留数の計算式に関して、最後から二番目の式の分子「(z+n)Γ(z+n+1)」は「(z+n)Γ(z+n)」の誤りではないでしょうか?
ご来訪ありがとうございます。確かに。訂正しました。ありがとうございます!